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共同研究を受託した際の収益の認識については、契約内容は様々であり、統一的な会計処理を提示することは難しい状況です。
会計上の判断のポイントは下記のとおりです。
① 返金可能性
② 対価を受領後に役務の提供が行われるか
③ 研究開発の成果が他社に帰属するか
④ 主たる事業か
①返金可能性について
製薬企業では、自社のパイプラインの開発権、販売権を他社の譲渡する「導出」を行う際にもこの「返金可能性」は問題となります。製薬業界では、製薬の研究開発にリスクが高いことに起因してたとえ、収益の対価の支払いについて規定されていても、別段の規定で条件によっては返金することが規定されている場合があります。
企業会計原則の損益計算書原則において「売上高は実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされていますが、「返金可能性」が契約書上で規定された場合に、この「実現したもの」といえるかがポイントとなります。
現在、収益認識に関する包括的な会計基準の整備に向けて、企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成29年7月20日に企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を公表しています。今後、処理を検討する際の一つの目安になります。
「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」
(11)返品権付きの販売
84. 顧客との契約においては、商品又は製品の支配を顧客に移転するとともに、当該商品 又は製品を返品して、次の(1)から(3)を受ける権利を顧客に付与する場合がある。
(1) 顧客が支払った対価の全額又は一部の返金
(2) 顧客が企業に対して負う又は負う予定の金額に適用できる値引き
(3) 別の商品又は製品への交換
85. 返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売したときは、次の(1)から(3)のすべてについて処理する([設例 11])。
(1) 企業が権利を得ると見込む対価の額(返品されると見込まれる商品又は製品の対価を除く。)で収益を認識する。
(2) 返品されると見込まれる商品又は製品については、収益を認識せず、当該商品又 は製品について受け取った又は受け取る額で返金負債を認識する。
(3) 返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識する。 86. 前項における企業が権利を得ると見込む対価の額を算定する際には、会計基準第 44 項から第 61項の定めを適用する。
87. 商品又は製品の販売後、各決算日に、企業が権利を得ると見込む対価及び返金負債の額を見直し、認識した収益の額を変更する。
88. 返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利として認識した資産の額は、当該商品又は製品の従前の帳簿価額から予想される回収費用(当該商品又は製品の 価値の潜在的な下落の見積額を含む。)を控除し、各決算日に当該控除した額を見直す。
②対価を受領後に役務の提供が行われるか
共同研究においては対価の受取条件と役務の提供が連動していないケースがあります。よくあるケースが、役務提供の状況のいかんに関わらず、契約時に一時金を受け取り、その後四半期ごとに一定金額を受け取るケースです。このようなケースでは、収益を役務提供に応じて収益認識することが必要となります。
「収益認識に関する会計基準(案)」
(一定の期間にわたり充足される履行義務)
35. 次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配が顧客に一定の期 間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する (適用指針[設例 7])。
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産 の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客 が当該資産を支配すること
(3) 次の要件のいずれも満たすこと(適用指針[設例 8])
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じ、あるいはその価値が増加すること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
③研究開発の成果が他社に帰属するか
自社の研究開発費と相殺するべきかの判断にあたり重要なポイントとなります。
研究開発の成果が、開発費を負担する他社に帰属する場合には、収益については総額での表示となります。
一方で、共同研究の開発成果が開発に参加したすべての者に帰属する場合には、受取った収入と自社の負担した研究開発費との相殺を検討することが必要になります。
④主たる事業か
「主たる事業」活動の成果の対価でない場合には営業外収益として処理するものと考えられます。
CRO(Contract Research Organization:医薬品開発受託機関)を除いて、製薬企業では、受託研究を「主たる事業」しているケースは少ないと思われます。